mainichiamatouのブログ

超長かったり、超短かったり。

BTS 花様年華 The Notes 2『Map of the Soul : 7』より 和訳

ソクジン

2022年4月11日

 再び注ぐ日差しの中で目を開いた。瞼の向こうには未だコンテナに立っていた火柱と、死んでいくナムジュンの姿が残っていた。今回も失敗だった。腕をあげて目を覆って考えた。ナムジュンを助けるにはどんな方法が残っているんだろうか。9月30日の様子をゆっくりと振り返った。特段感想は出てこなかった。少し経てば怖くもなくなった。

 初めてコンテナ村の事故が起きてから、数えきれないほどループした。だけど僕は未だに何故ループが起き続けているのか、どうすれば解決できるのかも突き止められていなかった。いや、それよりこの全てのことを終わらせる手がかりだという「魂の地図」が何なのかも探し出せていなかった。魂の地図。その言葉を聞いたのは、何回も失敗を繰り返した後だった。魂の地図を探せ。この全てのことを終わらせることができるだろう。魂の地図?それは何だ?急き立て尋ねたが、返事は返ってこなかった。代わりにこんな言葉が残された。ヒントに対する代価が伴うだろう。

 向こうにナムジュンのガソリンスタンが目に入ってきた。ゆっくりウィンカーを点けて、車線を変更した。一つだけ考えた。9月30日の事故を止めてループを終わらせる。ただ目標だけに向かって進んでいくんだ。その過程で問題ができたとしても、誰かが傷ついたり疎外されたとしても、しかたのないことだ。そんなことにこだわって途方に暮れていては目標を遂げられない。全てを救うことよりもっと重要なことは、僕だって生き抜くこと。それが数えきれないほど繰り返すループが僕に与えた教訓だった。

 

2022年9月3日

 ふいに、床に置いてある写真の中の場面が動いているかのように見えた。ホソクとジミンの笑い声が聞こえるかと思えば、ジョングクが振り返って僕を見つめた。次の瞬間ユンギのピアノの音が流れた。ナムジュンとテヒョンが笑いながら浜辺を走った。その全ての瞬間たちが、写真から打ちあがった映像のように宙に浮かび上がった。音楽が流れ、笑みが綻んで、日光が立ち込めた。瞬間と瞬間が重なり合って、映像と映像が矢継ぎ早になりながら、何かわからないものが心の中で解き放たれているようだった。それは血管に乗って体の隅々に広がっていった。頭の中をぎゅっと塞いでいた何かが壊れながら、爆竹が割れるように記憶たちが溢れ出てきた。一度放たれた記憶は、精神を取り戻せないほど渦巻いた。部屋全体が記憶たちで光りだした。悲しくて、恋しくて、苦しくて、楽しかった記憶たちが渦巻きだした。それを見ていると信じられない気持ちになった。僕がどうやってこの全ての瞬間を忘れることが出来るだろうか、そして発見した。僕のポケットの中で何かが光を放っていた。

 

 

ユンギ

2022年6月13日

 ジョングクの言葉が思い浮かんだ。ヒョンの音楽が好きだからです。ヒョンのピアノ聞くと涙が出るんです。僕が。一日に何度も死にたくなってたんですよ。それでもヒョンのピアノを聞けば生きたくなります。だからそうなんです。そうだからそうなんですよ。僕の言葉はそうだから、ヒョンの音楽が本当に、僕の心と同じです。酒に酔って床に伸びたまま、繰り返し言っていたジョングクの表情が浮かんだ。

 

2022年9月2日

 ジンヒョンに音楽ファイルを送って座席に横になった。倉庫教室から持ってきた楽譜を漁っている最中、余白に書いてある文字が見えた。一緒なら笑っていられる。自分の字ではなかった。いつかの日が思い浮かんだ。霧が立ち込めた日だった。いつの間にかジンヒョンと二人で運動場を横切ることになった。お互い気まずかった。俺はポケットに手を突っ込んで、わざとゆっくり歩いた。先に行ってくれと願ったけどジンヒョンはそうしなかった。代わりに中途半端な会話を試みては、その度にますます不自然になった。自分でも知らないうちに聞いた。ヒョンは最後に心から笑ったのはいつですか?ヒョンは答えなかった。俺もそれ以上は聞かなかった。

 一緒なら笑っていられる。この分はもしかすると俺の質問に対する答えなのかもしれない。ヒョンが書いたという確信は無かった。そんなものは必要なかった。楽譜に記された旋律は幼稚なばかりだった。せいぜい二年前なのに、あの時の音楽は未熟で乱暴だった。滑らかに繋がっていないし美しくも無かった。高校時代を思い返せば、酒に酔ってふらつきながら歩き回っていたことしか浮かばないが、必ずしもそんな日ばかりだったわけじゃない気がする。一晩中あの頃の音楽に手を加えることにした。こんな名をつけた。一緒なら笑っていられる。

 

 

ナムジュン

2022年9月25日

 僕はそのままコンテナの床へ仰向けになった。鉄製のコンテナの中はもう熱気で目を開けられないほどだった。顔をひどく歪めたまま周囲を見回した。ラーメンを買ってくるから待っていてと出て行ったのが10分前だった。バチンという音がして、振り返るとウチャンが中でうずくまっていた。毛布を生水で濡らしてウチャンの体にかけた。扉の外を指して言った。そこに走らなきゃ。ウチャンヤ。出来るか?扉の外には真っ赤な火柱が立っていた。ウチャンの手をぎゅっと握りしめた。三つ数えたら走るんだぞ。いち、に… 瞬間何かが扉の前に倒れた。コンテナの横に置いてあった資材の山が炎の中に倒れたようだった。土ぼこりの中で火花が散った。ウチャンと僕は驚き立ちすくんだ。瞬く間に出口が塞がってしまったのだ。

 

2015年5月21日

 ひっそりと玄関に立ち入った。取っ手をぎゅっと握って気を付けながら回すと、様子を伺った。何も聞こえなかった。首を突き出して見回したけど、家が真っ暗だった。一歩分中へ立ち入った。母さん。呼んでも誰も返事をしなかった。明かりを点けてからもう一度周りを見回した。九時過ぎの時刻。家に誰もいないはずがなかった。母さん。また呼んでみたけど、静寂だけがあった。

 普段より遅く帰宅することにした。もともとは学校が終わり次第母さんを手伝わなければと思ったが、一回でもいいから友達たちと遊んでみたかった。だから連絡もせず遅く帰った。それなのに家に誰もいなかった。変に冷やかな気分になって手のひらを腕で覆い、暗いリビングにただ立っていた。

 そしたら急に電話のベルが鳴った。寒気が滲んだ。あそこで電話が鳴っているのに、なぜかとってはいけないような、おかしな気分になった。電話に出れば全てが変わってしまうような、二度と今の自分には戻ってこれないような不吉な気分。だけど電話はずっと鳴っていて、僕は結局電話の前まで歩いていった。それから受話器を取った。

 

 

ホソク

2022年7月24日

 ジンヒョン、ヒョンのお父さんに一言でも言えないんですか?ヒョンは知ってるじゃないですか。そこが僕にとってどんな意味があるのか。養護施設は僕にとって家です。それからそこで暮らしている子たちは施設がなくなったら、バラバラにならなきゃいけないんです。再開発なんてあの施設を抜いたって出来るじゃないですか。コンテナに入るなり、前後の脈略も無しに喚き散らした。みんな驚いた眼で僕を見つめた。ジンヒョン、誰一人として表情を変えなかった。僕がもう今にも泣き出しそうに言葉を継いでのに、ジンヒョンはなんてことないような顔で僕を見つめた。

 もう既に決まってたことなんだ。僕が出来ることは無い。ヒョンの一言一言がものすごくゆっくりと耳に入ってきた。その一言一言が、ヒョンと僕の間にどれだけハッキリと線が引かれているのかを示してくれた。ヒョンは決定する世界の中にいて、僕は決定に抗議すら出来ない世界の中にいた。僕はジンヒョンが友達だと思っていたけど、もしかしたら本当の世界ではヒョンと僕の友人関係は成立しない事なのかもしれないという考えが浮かんだ。

 僕はヒョンにもう少し怒った。ヒョンがどうやってこんなこと出来るんだよ、と声を張り上げて、ついて来てくれと哀願したりもした。だけどそんな時でもわかっていた。そんなのはただやってるだけ意味がないと。僕が出来ることは何も無かった。それにそれはヒョンへの言葉でも、ヒョンへの怒りでもなくて、自分に対するものだった。何も出来きない、何者でもない存在の自分へ。

 

2009年8月月30日

 目を擦って起きた。ヒョンたちが静かについて来いというジェスチャーをして見えた。実は僕はもう少し寝ていたかったけど、ただヒョンたちだけについて行った。こそこそと部屋を抜け出して廊下を通った。辺りは真っ暗だった。何時なのか考えたけど、就寝時間がとっくに過ぎていること以外は見当もつかなかった。階段を上がって屋上に続く鉄の扉を開けた。キイッ。音にヒョンたちが驚いて立ち止まり、僕もそうした。周囲を見回した。

 屋上にわちゃわちゃと集まって座った。僕たちなんでここに上がってきたんですか?僕の質問に大きいヒョンが言った。ちょっと待ってろ、チョン・ホソク。その瞬間だった。パァンという音がするなり、北の空が明るくなった。僕はびっくりして目を瞑りながら身を縮こませた。何かが燃えている匂いがする気もした。うわぁ。誰かが大声をあげて、大きいヒョンが静かにしろとたしなめた。僕はそっと細目を開けて北の空を見上げた。もう一度パァンという音がすると、夜空に星たちが現れた。星じゃなくて花火だ。ヒョンが教えてくれた。

 花火は絶え間なく咲いた。僕は屋上の床に仰向けになって、空で破裂する星たちを、火を、花を見上げた。チョン・ホソクが泣いた、泣いてる。ヒョンたちがからかっている声が聞こえた。えい。僕は袖で目じりを拭った。余計にもっと涙が出た。

 

 

ジミン

2022年7月18日

  僕はコンビニの近所をぶらつきながら時間をつぶした。ソンジュ第一中学校の後ろ側。こっち側の塀を越えて、こっそり抜け出したりもしたし、コンビの向こう側の小さい公園でヒョンたちを待ったりもした。辺りを見回した。久しぶりに訪れたこの小さな町は全然変わってなかった。ユンギヒョンとジョングクの家がこの近所だと言っていたのを思い出した。周辺をきょろきょろしたけど、右側の通りの中にグラフティーのようなものが見えた。テヒョンが描いたものみたいだった。そっちの方へ歩みを進めた。

 絵の前で自分でも気づかないうちに立ち止まっていた。荒く黒い線で殴るように描いてあるそれは、温もりも無い誰かの顔だった。誰かと言ったけど、僕は知っていた。その顔の持ち主を。ソクジニヒョンだった。ヒョンを思浮かべた瞬間、また違う人の顔が重なった。比べてみれば全く似ていない顔だった。それなのにその二人の顔が瓜二つに見えた。二人は同じ目をしていた。生気のない目。その時ようやくわかった。僕が誰を訪ねていくべきなのか。

 

 

2022年8月12日

 震えている幼い僕を抱き寄せた。湿った体と早くなっている鼓動が感じられた。僕はたどたどしく言った。ちょっとだけ待ってて。君がもっと成長すれば、いい友達に出会うはず。友達たちと一緒に過ごしながら、君はもっといい人になるんだ。それくらいの時にはもう大丈夫になってるだろう。だからもう少し、もう少しだけ頑張るんだ。僕は言い終えると僕をよりぎゅっと抱きしめた。我慢できずそのまま泣いた。

 どれくらい時間が過ぎただろうか。目を開けると幼い僕は消えていなくなっていた。そこから起きて目じりを擦ると空を見上げた。真昼の空は雲一つなく晴れて、周囲は静かだった。向こうに草花樹木園の出口が見えた。雨が降った形跡はどこにもなかった。

 

 

テヒョン

2022年7月23日

 僕たちは教室の真ん中に出て立った。携帯のフラッシュライトの下、古ぼけた椅子ところころと巻かれたイベントプラカードが現れた。誰も出入りしてない教室はより一層古びていた。辺りを見回した。ここで何があったんだろう。ジミンは向こうの壁の前で小さくうずくまっていて、ユンギヒョンはピアノの椅子に腰掛けていた。ナムジュニヒョンが手のひらで窓に何かを書いた。

 高校の時みたいだな。夜中に学校でこんなことして。しばらく時間が流れた後ナムジュニヒョンが言った。高校なんて、俺はもうごめんだ。ユンギヒョンがフッと笑いながら言った。世界はどうしてこの形なんだろう。この世界、僕たちが作ったわけじゃないじゃないですか。生まれてみたらこの形だったじゃん。なのにどうしてこんな世界で、何の方法もなしに、投げ込まれて生きなきゃいけないんですか。ナムジュニヒョンが言った。

 お。ちょっとここ見て。その時ジミンが体を起こしながら言った。ここにソクジニヒョンのお父さんの名前がある。ジミンが指さすところに近寄った。壁にぎっしり記された落書きの中に、何人かの名前があった。みんなのフラッシュライトがその名前を照らした。ジミンが他の名前の一つを指しながら言った。精神病院のおじさんだ。他の名前は知らないけど。ユンギヒョンがまた違う名前を指した。チェ・ギュホ。失踪した人だよな?それらの名前の下に書いてある文はナムジュニヒョンが読んだ。全てはここから始まった。

 

 

2022年7月24日

  どれくらいそこに座っていたんだろう。三階の廊下に誰かが歩いてくるのが見えた。距離がかなりあったから顔は見えなかったが、痩せ型の中年女性のようだった。女性は廊下の手すりに両腕をかけると、遊び場の方を見下ろした。それから煙草に火を点けた。ライターの火がきらっと光って消えた。青い夜明けの空気の中で煙草の煙が広がった。

 僕は微動だにせずその姿を見上げていた。陽が出てきているのか周囲がほのかに白く明るくなってきた。女性は相変わらず腕を手すりにかけて外を見下ろす姿勢そのままで、一本の煙草を全部燃やしたのでもう一本取りだして加えた。

 あの人も僕を見ているだろうかと考えた。遠いから顔は見えないだろうけど、この夜明けにどんな人が遊び場のブランコに座っているのかを見て、何を思うのだろうか。ブランコがきしまないように両手両足に力を入れて支えた。煙草の火がしずまったり大きくなったりを繰り返した。陽が上っていた。明るく昇る光を受けながら、女性は最後の煙草を燃やした。それから背を向けて中の方へ消えていった。僕は廊下の左側から扉を一つずつ呼び止めてみた。304,305,306。そしたらあの扉は母さんの部屋だった。

 

 

ジョングク

2022年6月13日

 夢を見た。宙に浮いたままの病室を見下ろしているのに、病室のベッドの上にもう一人の僕が横たわっていた。ベッドの僕は眠っているようだった。何の夢を見ているのか、瞑った目の中で瞳が発作的に動いていて、するとなんの前触れもなく目をハッと開いた。その瞬間目が覚めた。

 次の瞬間、僕はベッドに横たわっていた。事故が起きた夜の夢を見た。ヘッドライトは月になって、突然黄緑色と青色の玉のような光に変わった。そして目を開けても向こうの宙にまた僕がいた。宙にいる僕と目が合った。二つの視線が交差して二つの意識が逆転した。僕は宙に浮く僕だったりベッドに横たわる僕になったりを繰り返した。逆転と交差の速度はだんだん早くなった。めまいがして嘔吐した。

 そうしているとあっという声がして目が覚めた。シーツが汗でじっとりとしていた。息が苦しくて吐いた。ふいにその時まで忘れていたことを思い出した。誰かの声。生きるのは死ぬより苦痛だろうに。大丈夫?母さんが医者を呼んで傷を確認した。医者は僕が早く回復しているから心配ないと言った。打撲と骨折を負ったけど、出血はほとんどなかった。交通事故にしては運がいいと言った。僕は医者を見て聞いた。ところで僕を轢いた人は誰ですか?

 

2022年9月3日

 なんで死んでないんだよ?誰かが焦って怒鳴った声に、僕は物思いから抜け出した。スクリーンにはシューティングゲームが繰り広げられていた。ヘッドフォンからチームの人が敵が現れたと声を張り上げた。僕はすぐにマウスを握った。狂ったように銃を撃った。打たれた相手は空気が抜けたようにバタバタと倒れていった。マウスを動かしてマップを見返した。鉄道がマップの中央に通っていた。鉄道の横に大きなコンテナがぽつりぽつりと置いてあった。まるでソンジュ駅とコンテナ村を見ているようだった。

 武器を変えて入った。連射できるマシンガンだった。向こうに黒い頭巾を被った敵が現れた。銃を構えたけど、瞬間知っている人のような気がした。敵軍は一度で倒れていった。続けて敵たちに向かって何も考えず銃を撃った。自分でも知らないうちにヒョンたちを思い出していた。くすりと笑いがこぼれた。それもを見てヒョンたちは似ていると思った。一人ひとり制圧して出て行った。コンテナから出てきた敵たちを見るなり打ってしまった。地面に倒れた敵をしばらく見下ろした。ナムジュニヒョンかと思ったけど、誰かが使った銃を肩に合わせた。マウスで視線を動かすと銃を持っている敵が見えた。ソクジニヒョンだった。瞬く間に敵意が沸き上がった。